最近、貴金属店やネットショップを覗いた人なら、
ある異変に気づいたかもしれません。
「金のインゴットが売り切れている。」
「小型バーの入荷待ちが続いている。」
「プレミアムが数万円単位で上乗せされている。」
いま、金を“買いたくても買えない”時代が訪れています。
それは単なる品薄ではなく、人々の不安が形を持ち始めた瞬間なのです。
【価格は上がっても、人は「欲しい」と思う】
2025年10月。
金価格はついに**1gあたり22,000円(約4,000ドル/oz)**を突破しました。
にもかかわらず、国内では「買いが止まらない」。
日本マテリアルや田中貴金属では、
100g・500gのバーが軒並み在庫切れ。
オークションでは「正規価格+数万円」の上乗せ取引が当たり前。
奇妙ですよね。
価格が上がれば、普通は“売りたい人”が増えるはずなのに、
現実には“買いたい人”が溢れている。
なぜでしょうか。
【供給の枯渇ではなく、“信頼”の買い占め】
まず、物理的な供給不足。
これは半分だけ正しい。
確かに、
- 世界的な中央銀行の買い増し(特に中国・トルコ・インド)
- ロシア制裁による金精錬ルートの制限
- 円安による輸入コスト上昇
などが重なり、日本国内の実需在庫は圧迫されています。
でも本質的な理由は、もっと心理的です。
「お金の信用が不安だから、“本物の重み”を手元に置きたい。」
この“心理的金本位”の動きが、
小口投資家から富裕層まで広がっているのです。
インゴットが店頭から消えたのは、
金属が減ったからではなく、人々の安心が消えたから。
【現物の品薄は、相場の“熱”ではなく“恐れ”のサイン】
経済学的に見ると、現物の枯渇は「過熱相場」の典型パターン。
けれど今回の金市場は、投機的な熱狂ではなく、恐れの集積です。
いくつかの指標がそれを示しています:
- ETF残高は横ばい(短期投機マネーは静観)
- 現物取引のプレミアム(店頭価格)が急上昇
- 中央銀行の金買いが過去最大水準
つまり、いまの金高騰は「投資」ではなく「避難」。
市場の空気は、
“利益を求める熱”ではなく、“安心を取り戻す冷たい熱”で動いています。
【金価格の次の動き──一時的な冷却と再上昇】
金の価格は常に心理の振り子で動きます。
- 「恐れ」→買いが殺到 → 現物不足・急上昇
- 「飽和」→買えない状況に疲弊 → 一時的に冷却
- 「制度・信用リスク再燃」→再び上昇
このパターンが2026年にかけて繰り返されるでしょう。
すでに日本では、金の店頭販売価格が実勢より3〜5%高くなっています。
この“プレミアム”が剥がれた時、一時的な調整が来る。
しかし、下落幅は限定的。なぜなら「手放す人」がいないから。
長期的には、2026〜27年にかけて**30,000円/g(約5,500〜6,000ドル/oz)**への上昇余地が残ります。
これは単なる価格予測ではなく、信頼の移動速度の反映です。
【まとめ:インゴットが消えたのは、未来への“防衛本能”】
金が高騰しても、売る人がいない。
それは、投資家が利益を狙っていない証拠です。
彼らが買っているのは「金」ではなく、「確かさ」です。
インゴットが消えたのは、
世界が“信頼の逃避”を始めたから。
価格が上がっているのではなく、
通貨の価値が静かに下がっているのです。
だから、もしあなたが今、
「金は高すぎる」と感じたなら──
それはおそらく正しい。
でも同時に、「通貨が安すぎる」のかもしれません。

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